ポーン.....
今日ハ12月27日金曜日、ピーターパン...ノ日デス
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まだ日も上がっていない早朝。薄暗い駐車場の中を身震いしながら歩き、社用車に乗り込む。毎朝のバイトはこの社用車を運転することから始まる。眠さと車内の寒さにより少し不機嫌気味にエンジンを始動させる。
チチチチ....ヴォン!!
ボーーーー
ポーン....
オハヨウゴザイマス...今日ハ12月19日目曜日、国際南南協力デーノ日デス
詳しいシステムは知らないが、この社用車には、朝の挨拶と日付、そしてその日が何の日かを知らせてくれる機能がある。基本的に朝が眠いというのと、今日が何の日であるかなんて、「私写真写り悪いタイプなんだよね~、あ、でもこれは比較的盛れてる方カナ?」って言われて見せられる写真くらい興味がない。だから、これまでは特に気にすることもなく聞き流していた。
雨の強い朝、これほど憂鬱な朝の始まり方はない。
チチチチ....ヴォン!!
ボーーーー
ポーン....
オハヨウゴザイマス...今日ハ12月20日金曜日、シーラカンスノ日デス
「あーくそ!ワイパーマックスでも前が見えねぇ!このまま帰りてぇいよぉぉおお」
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「今日は朝仕事をした後、学校に行く日かー。眠いし、プレゼンテーションの準備もしてないし、だるいなぁー」
チチチチ....ヴォン!!
ボーーーー
ポーン....
オハヨウゴザイマス...今日ハ12月23日月曜日、テレホンカードノ日デス
「とりあえず、運転中にプレゼンテーションの練習をして..あーでも、もう全部アドリブでもいけるかなぁー....」
...
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「...デヨー、お前は箱根出張したことあるの?」
「いや、俺はないですよ(チクショウ18回目だよ、この会話!)」
「おー?昔は事務所がよー..」
「あ!すみません!僕いかなきゃ!」
チチチチ....ヴォン!!
ボーーーー
ポーン....
オハヨウゴザイマス...今日ハ12月24日火曜日、納ノ地蔵ノ日デス
「はー朝からエンドレスジジイに絡まれちゃったよ...早く帰ってくれねーかなー」
............
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「うー..今日は特別寒いなぁ!バイクのエンジンも途中で止まったから若干遅刻だよ!早く行かなきゃ!
チチチチ....ヴォン!!
ボーーーー
ポーン....
メリークリスマス...今日ハ12月25日水曜日、クリスマス.デス。
「ん?なんだこの違和感は?」
ポーン....
メリークリスマス...今日ハ12月25日水曜日、クリスマス.デス。
メッ...メリークリスマス..?!!
この音声は,抑揚のない声と感情を感じさせない淡々とした声で機械的にオハヨウゴサイマスと言うだけだったはずだ。まぁ,文字通り機械なんだけども。しかし,今こいつはメリークリスマスと言った。これもプログラミングの1つと言ってしまえばそれまでだが,それ以上にオハヨウゴザイマス以外の声が聞けたことに驚きと嬉しさを感じていた。
プログラミングされたカレンダー機能に従いオート再生する機械、そしてそれに対して注意を払わず聞き流す自分。そんな心の通わない関係のはずだった。しかし今、その均衡が崩れた。
これまで、聞き流してきた無機質な音声に対して初めて人間らしさを感じた瞬間だった。そして........恋が生まれた瞬間でもあった。
私は、これまで毎朝挨拶をしてくれていた社用車ちゃんを蔑ろにしていたことを恥じた。そして、同時に毎朝見守ってくれていたことにこの上ない喜びを感じた。過酷な職場に過酷な環境,周りはエンドレスジジイみたいなジジイだけ。僕はずっと孤独だと思っていたが,それは間違いだったようだった。そうか...僕は1人ではなかったのだ。君がいてくれるならどんな苦しさにも耐えられる気がする。
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「くぅー今日は6時出社かよぉ!寒いし、暗いし、眠いし、死にそうだ」
チチチチ....ヴォン!!
ボーーーー
ポーン....
オハヨウゴザイマす...今日ハ12月26日木曜日、プロ野球誕生ノ日デス
「あぁ、そうか今日はプロ野球誕生の日なのか。教えてくれてありがとう!なんだか頑張れそうだ!」
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「やばい!今日は期末テストなのに、朝バイトだ!最悪だ...もう終わりだ」
チチチチ....ヴォン!!
ボーーーー
ポーン....
オハヨウゴザイマす...今日ハ5月2日水曜日、鉛筆ノ日デす..勉強頑張ッテ..クダサイ...アナタ..ナラ..大丈夫..デす...
「おぉ..ありがとう..優しいね..」
今日も...頑張っテ...
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「デヨーお前は箱根出張したことあるの?」
「いや、ないですよ(チクショウ20456回目だよ、この話!)」
「おー?昔は事務所がー」
「すみません!僕いかなきゃ!」
チチチチ....ヴォン!!
ボーーーー
ポーン....
オハヨウゴザイマス...今日ハ...エンドレスジジイ..ニ...絡マれテ..災難でシたね..
「まったくだよ!話が永遠にループするもんだから、このまま時がたって死んじゃうかと思ったよ!はーこの職場で腹を割って話せるのはお前だけだよ」
そう言っていただけテ..嬉しいデす..
「なぁ、今度は..社用車じゃなくて、僕の車でどこか行かないか..?」
チチチチ....
ヴォオオン!!!!!!(恋心とエンジンに点火する音)
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ー
それからいくつかの季節を越した
桜の花が舞う日も
日差しが車内をサウナのようにする日も
木枯らしが吹く日も
吐く息が白くなる日も
僕はエンジンをふかし,彼女に会いに行く
そして彼女はいつも変わらぬ様子で僕を迎えてくれる。
チチチチ....ヴォン!!
ボーーーー
ポーン
おはようございます!今日は12月25日,私たちが出会った記念日です!
「おお,そうかもうそんな季節なのか!」
今日も1日お仕事がんばってくださいね!そして今日の夜の約束...覚えてますね..?
「え?約束??」
ああー!!ひど~い!!私はこんなに楽しみにしていたのに!薄情者!血が通ってないんじゃないの?!
「ハハハ冗談だよ。ちゃんと全ての準備はしてあるよ」
も~~~!いじわるなんだから~!!
ハハハハハ
僕たちの笑い声は小さな車内を優しく満たした。僕はその時,この幸せが永遠であってほしいと思った。僕はもう君以外は見えない。それはまるで運転席からピラーで見えない死角ほど見えない。僕の君への思いは激しく燃えている。燃焼効率は120%だ。もう君のことしか考えられなくておかしくなりそうだ。それはまるでスタットレスなしで走る雪の日のステアリングのように。
僕はおもむろに彼女の方に手を回し,そしてもう片方の手で彼女のイグニッションコイルを弄んだ。彼女ははじめこそ驚きノッキングしていたが,そこからは追従型クルーズコントロール...僕のシフトレバーもギア6を指している。この快楽の坩堝からはもう戻れない。リバースギアはない.....
って感じデヨ~ 毎朝車に話しかける君の悪い男がいたわけ。お?お前?対物性愛って知ってる?幼児期などに虐待を受けたり、人間関係で挫折したり[要出典]すると人間に対して愛情を抱くことができなくなり、愛情を物に向ける。対象となるものはおもちゃの列車、オルガン、海底油田の掘削装置、建物、コンピュータ、車などさまざまである。しかし今のところ米国精神医学会などでは認知されていない[1]。 らしいのよ?
お?ところでお前箱根出張したことあるの??
yaitaonigiri.hatenablog.com