東大生

私の友人である東大生の話をしたい。他の特徴を差し置いて,真っ先に東大生と言ってしまうあたりに自分の小物感が出てしまっているが,彼の天才的発想を前にして浅学非才の私が言えることは,やはり「さすが東大生でヤンス...」という言葉だけである。

 

あれは,私が彼の家に泊めさせてもらった時のことである。彼は次の日の朝に用事があったため,とても早く家を出なければならなかった。一方,私も他の用事があったため,彼ほど早くないにせよ,家を出なければならなかった。彼が先に出て,その後,私が家を空けるので,鍵の管理が問題になる。私はそのまま名古屋に帰らなければならなかったので,私が鍵を閉めて保管するということはできなさそうであった。ここで凡人の私が20000kcal使用してひねり出した案は,私が鍵を閉めて,その後,鍵をポストに入れておくというものであった。我ながら良い案だと思った。

 

しかし,彼はキッパリとこれを否定した。そして,鍵はかけずに,そのままにしておく方が良いといった。彼のアパートが最強オートロックであったり,ご近所の繋がりが強い地域だったらならまだ理解ができたが,彼の家は大都会TOKYOのノーオートロックアパートだったのである。大都会TOKYOで鍵をかけないというのは,ちょうど空腹ライオンの群れの中で裸でコサックダンスをした後,ライオンの悪口を言って,1人BBQをするのと同じくらいリスキーである。

 

しかし,彼曰く,

「泥棒がポストの中に鍵を発見した場合,それは100%家に誰もいない合図となってしまい,やすやすと入られてしまう。一方で,鍵がかかっていない部屋は誰もいないということは意味しないし,そもそも強盗でない限り,誰か中にいる可能性がある部屋にわざわざ突入しないだろう。」

確かに,彼の言うことは理が通っているように感じた。

 

小学校のころ,人の気持ちになって考えようと教わったことを思い出した。泥棒の気持ちになって考えてみると,「住人に見られるのを覚悟で鍵がかかってるかどうかを一軒一軒確かめて,かかってなかった部屋を見つけたら,中に人がいるかもしれないが意を決して飛び込む....」とは考えないだろう。しかし,理論上はそうだとしても,鍵をかけずに街へ繰り出すという大胆な行動は私には到底できない。

 

彼は,小学生でも知っている基本的な思考法(人のきもちになってかんがえる)をしつつ,誰もできないような大胆な行動ができる。天才的な発想とは,奇天烈なアイデアばかりでなく,今回の例のように,基本的だが誰も見つけられなかった(あるいは,できなかった)ことなのかもしれない。まさに東大下暗しである。