アメリカでやったことなのないカードゲームの大会に出た (長編)

 

この記事をスティーヴン・スピルバーグ監督に捧げる

 

ルームメイトとの出会ひ

 

話は遡ること8月。ニック,クリス,エリックの3人のルームメイトと初めて会った。彼らは元々もう1人の友達と4人で暮らしていたが,その彼がドイツへ交換留学に行ったため,そこの穴に日本から来た私が入ったという形だった。最初は,長い付き合いの友達の輪に入るのは申し訳ないと思ったが,彼らはそんなことを気にさせないくらい暖かく迎えてくれた。

 

そんなナイスガイな彼らだが,ひとたびそれぞれの部屋に入るとガチゲーマーに豹変する。優しいニックが「チクショーーーー!!」とコウメ太夫ばりに叫べば,エリックは鋭い壁キック,イケメンなクリスはマグニチュード8の机パンチ。中でも,エリックはこの3人の中でも特に真剣にゲームに取り組んでおり,煽りと壁キックのキレに関しては他の追随を許さない。

 

そんなエリックがある時MTGというカードゲームを紹介してくれた。MTGと言えば1枚ウン万円もする高額カードがゴロゴロしている,お金持ちの遊戯(あそび)だと思っていた。だから,一緒にやらないかと誘いを受けても敬遠していたのだが,どうしても避けられない事態に遭遇したのである。

 

 

 

地獄合宿編

 

それは,11月にあるサンクスギビングの期間に彼の家でお世話になった時だ。彼の家はアニメ版ドラえもんスネ夫の家を凌駕するほど豪華で,家族も非常に優しかった。「のび太~このゲーム3人以上でもできるから,みんなでやろうぜー」と暖かく迎えてくれた。また彼らは私のために毎日イベントを計画して色々なところへ連れて行ってくれた。「月曜日はホッケーの試合をみて,火曜日はダウンタウンで美味しモノを食べて...」と言った具合に,お母さんがスケジュールを組んでくれていた。そのスケジュールの中に,

 

「金曜日:MTGの大会」

 

と当たり前のように書いてあった。きっとお母さんの中では,MTGもババ抜きと同じようなカード遊びでしょと思ったのだろう。いや,それはきついっすよと言おうにも,エリックも興奮してしまい,その日からたった5日間で大会の準備をしなければならなかった。

 

幸いなことに,PCで練習ができたので,その日の夜から猛特訓が始まった。ルールを覚えることから始まり,その後,エリックが様々な詳しい情報を教えてくれた。しかし,マジで何言ってるか分からなかったので,New Horizonで勉強した「I see」,「Really?」,「Sukoshi」で何とか乗り切った。

 

ある程度ルールやセオリーは理解できたものの,未だに知らないカードやルールもあるし,そもそも相手とコミュニケーションが取れるかが非常に不安だった。偏見ではあるが,自分の中では,カードゲームをやっている層は,かつてのキーボードクラッシャーみたいな危ない方のオタクという発想があったので,大変不安であった。一方,エリックは「決勝で会おうぜ!」と少年のような無邪気な笑顔で笑っていた。

 

 

試合当日

 

現地に着いた。

f:id:yaitaonigiri:20181230112551p:image

 

 

試合は,3回勝負の3回戦であったが,私の目標は勝敗以前に,とにかく試合になるレベルにしようという低い目標だった。私のグループには,エリックと自分を含めた6人がいた。カードゲームをやる人はカードに傷がつかないように,プレイマットと呼ばれるやらしい名前のマットを下に敷くのだが,私はそんなもの持っておらず,水と目薬だけという無課金ユーザーみたいな装備で赴いた。

 

ちなみにこの大会はその場でカードのパックを開けて,デッキを構成するという形式の大会だった。6人がカードパックを持ちより,パック開封の時間が始まった。PCでの特訓では予め開けられた状態で出てくるので,この時が初めて物理的にパックを開けた瞬間だった。

 

「開けたパックから好きなカードを1枚引いて,残りを横の人に回すんだよな...」と戸惑いながらルールを思い出していると,対面の兄ちゃんがカードを表向きにして置いているのに気が付いた。カードは表向きに置かないといけないのかと思い,1枚引いて机の上に表向きに置いた。

 

すると,エリックが「オイイイイイイ!なにやってんだい!!」と勢いよく注意してきた。どうやら他の人が表向きにしているのは,各パックに必ず1枚入っているトークンと呼ばれるデッキとは関係のないカードのようであった。それを開封時に抜いておき,自分のデッキとなるカードは伏せておくのが常識らしかった。

 

「アッ...ゴメンナサイ...シラナカッタデスゥ」とキョどりながら謝ってると,周りから「やれやれ..とんだザコが迷い込んじゃったみたいだな...おジャ魔女どれみのかるた大会ならウエスバージニア州だぜ...HAHAHAHA」と言わんばかりの嘲笑を感じた。メチャクチャやり辛い雰囲気ではあったが,エリックから教わった強いカードだけに注目して,何とかデッキを組み立てた。

 

 

第1バトル:チュートリアル兄ちゃん

第1バトルはグループの中で1番優しそうなお兄さんだった。初めに「ルールをまだ完全に理解してないので,間違えたらごめんなさい」と断っておいたら,「No problem!ゲームを楽しもう!☆」とメチャクチャ優しいお兄さんで涙がほろり。

 

お兄さんのおかげで少しリラックスできた。カードを引くと,5日間の特訓でひたすら練習したのと同じようなコンボが組めそうであった。これゼミでやったところだ!と言わんばかりにカードを展開していると,なぜか勝てた。

 

自分もお兄さんも「ゑ....!?」と困惑していた。そして,第2試合先程と同じようなカードが引けたので同じように展開してたら,なぜか勝てた。

 

自分もお兄さんも「ゑ....!?ゑゑ!?」と当惑した。3回勝負で2勝したので,この時点で第1バトルは勝利ということになった。お兄さんは今週始めたばかりの初心者に負けたショックを感じていただろうが,素直に祝福してくれた。「haha負けちゃったよ。..君,強いね」と。その優しさにも涙がほろり。もう勝負はついていたが,あまりにも早く終わったので,遊びで稽古してもらうことにした。そこからは,相手の本調子が出てきて,1回も勝てなかった。やはり試合は本当に運が良かったらしい。その時にルールの詳しい説明やデッキの編集まで手伝ってくれて,最後まで良い兄ちゃんだった。

 

第2バトル:世界仰天ニュースの再現VTRにいそうなお姉ちゃん

第2バトルは,そのテーブルの中で紅一点のお姉ちゃんだった。どうやら,彼ピッピと仲良く出場しているようだった。先程の兄ちゃん同様,「初心者なので,ルール間違えたらごめんなさい」と断っておいた。すると,露骨に嫌そうな顔で何かブツブツ言ってた。何だかやり辛いなと思いながらも分からない事があったので試合中に質問すると,「は?」「しらんし」と冷たい返答を繰り返してきた。幸いなことに,初心者の自分でも分かるくらいクソザコだったので,再び2勝コールドした。ここは勝てて嬉しかった。

 

結局この時点で4勝0敗と最高のスタートを切っていた。まさか自分が本当に決勝戦に行けるなんてと,驚きを隠せなかった。決勝に行けただけでももう満足だったが,ここまで来たら行けるとこまで行きたいと思うようになった。そしていよいよ決勝戦。決勝の相手は同じく4勝0敗で勝ち進んできた.......

 

 

 

 

 

 

 

 

エリックだった。

 

 

ファイナルバトル:エリック

まさか本当に決勝戦で会えるとは...。エリックは1度何かのゲームを極めるとトコトンやるタイプだった。聞いた話では,ギターヒーローという太鼓の達人みたいなゲームにハマりまくり,結局そのまま本物のドラムを始め,CDを発売するまでバンドに熱中したらしい。MTGも例外ではなく1枚数千円はするカードを躊躇なく買って大学近くの大会でも好成績を収めているらしかった。

 

その実力は確かで,第1ゲームはボロ負けした。彼はお得意のアメリカン煽りで挑発してきた。まぁ,エリックに負けるのは当然か...と納得する一方,自分の中で何かが動いていることに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

悔しい・・・?

 

 

 

 

 

 

オレは悔しがってるのか・・!?

 

 

 

最初は試合になれば,という低い目標だったが,今は勝ちたいという高い目標になっていることに気が付いた。自分の中の熱を感じる。こんなに何かに熱くなったのはいつぶりだろうか。もう1敗もできない追い込まれている状況なのにワクワクしている・・・・そうか・・・これが決闘(デュエル)か・・・・!!

 

 

自分の中の何かが目覚めた。これでも高校時代は,親からもらったご飯代を大幅にケチり,余ったお金でカードを買う畜生デュエリストだったのだ。あの時の感情が自分を突き動かす。第2試合は自分の中の切札勝舞が覚醒し,ぎりぎり勝てた。これにはあのエリックも動揺を隠せない様子だった。これでお互い1勝1敗。次の試合の勝者が優勝となる。

  

馴れ合いはもう必要なかった。お互い黙々とシャッフルをし,本当のファイナルマッチが始まった。こちらは小型クリーチャーでバトルゾーンを制圧しつつ,強力クリーチャーを出す機会を狙っていた。一方,あちらも負けずに強力魔法でオレの戦友(なかま)を次々に墓地へと葬っていく。オレは戦友(あいぼう)が死ぬ度に,アイツらの苦しそうな声が聞こえてきて,立っていられなかった!!

 

 

 

でも,オレにはうしろを振り向く暇はねぇ!!!

 

 

 

 

オレは前だけ見て,戦わないといけないんだぁぁぁぁっっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くで稲妻が鳴った。大地は轟き,生物はその命を知らせるかのように,一斉に鳴き始めた。人々は暴れ,誰かが祈った。嵐は次第に大きくなり,風は容赦なく全てを吹き飛ばしていた。その瞬間,バトルゾーンでは1つのクリーチャーがその戦いに終わりを告げようとしていた。

 

 

 

 

 

くらえ・・・direct attack・・・・・・・・

 

 

 

 

 

光が差した。。。。。。。

 

 

 

 

 

/////////////////////////////////////////

/////////////////////

/////////

////

//

 

f:id:yaitaonigiri:20181230112759p:image

 

 

こうして,私は優勝をした。優勝したので景品を貰えた。たった5日間のトレーニング,ルールもろくに知らず,プレイマットも持ってない初心者が優勝。これはちょうど弱小野球部が甲子園出場を果たすような国民が大好きなストーリに近いはずだ。それなのになぜ,この話はドラマ化されたり,「マヂ感動ダヨネ。ウチラBFF」と話題になったりしないのだろうか。甚だ疑問である。ドラマ化,映画化のご相談待ってます,スピルバーグ監督。