はじめに
バタフライエフェクトを知っているだろうか。これは，「中国の蝶の羽ばたきがニューヨークのハリケーンを引き起こす」と言うように，ほんの些細な原因が，時間経過によって予想もつかないような大きな結果になる，と言う事を示したアイデアである。「風が吹いて砂が舞うと桶屋が儲かる」というのも同じ理論で説明される。このように，日常の何気ない行動がトリガーとなり，最終的に世界をも変えてしまうこともある。そして実際，私は世界が変わった瞬間を目撃したのだ。サイゼリアで。
サイゼリアで起きた奇跡
話は2年前に遡る。当時，空前のサイコロブームが私の中で巻き起こり，飲食店のメニューをサイコロの出た目で決めるゲームが大好きだった（ダイスなだけに）。例えば，サイコロを2つ振って，3と5が出たとしたら，3ページ目の上から5つ目の商品を注文する，と言った具合である。
さて，そのような経緯で私は，サイコロを次に振る場として，サイゼリアを設定した。サイゼリアは比較的価格が安いため，最低2品注文しなければならないという追加ルールを設けた。そしてここで，歴史を大きく揺るがす奇跡を起こしたのである。
サイコロが示した2品は，ドリンクバーとペコリーノチーズであった。最初は単に，食事メニューが無いという事実が可笑しいと思っていた。すると，ある事に気が付いた。まずは，ドリンクバーの説明を見てほしい。
ドリンクバーは単品で買うと280円なのだが，何か1品でも料理を頼むとセットドリンクバーになり，値段は90円安い190円になる。
そして次にペコリーノチーズを見てみると
その値段は69円。
これは，ドリンクバーとセットドリンクバーの差額分である90円よりも21円安い。つまり，単品のドリンクバー(280円)を頼む時，このチーズ(69円)も頼めば，21円安くなる上に，無料チーズまで付くと考える事ができる（下図参照）。物が付いてくる上に安くなるならば頼まない理由はない。
（分かりやすい図）
しかし，問題は何がセット”料理”なのかということだ。ペコリーノチーズは料理と言うよりは，むしろ調味料である。果たして，ペコリーノチーズは，セットドリンクバーの発動条件である”料理”として認められるのであろうか。
いずれにしても，サイコロの出た目は，アレルギー以外は絶対注文しなければならないというルールがあったので，とにかく頼んでみることにした。しかし内心，悪ふざけと見なされて怒られるかもしれないとドキドキしていた。もしも怒られたら何といえば良いのだろうか。サイコロだけに5面（ごめん）ってか。あ，よく考えたらサイコロは6面だなと，心配していたが、注文は意外にもすんなりと通った。そして，小さなお皿に盛られたチーズと共にやってきた伝票には，堂々と「セットドリンクバー」の文字が記されていたのだ！
これにより，69円のペコリーノチーズは料理と見なされ，280円のドリンクバーが190円のセットドリンクバーになることが証明された。私は合法的に21円というお金を錬金することに成功したのだ！！たかが21円ぐらいで...と思うかもしれないが，どんなに小さなお金も侮ることはできない。仮に20,000,000,000回行ったとすれば，420,000,000,000円，これは1400000000個分のミラノ風ドリアに相当する。私は，この裏技をペコリーノバグと命名し，今度からドリンクバー単品を頼む時はこの裏技を使おうと思ってた。しかし，ドリンクバー単品を頼む機会は中々訪れず，いつしかペコリーノバグのことは忘れていた。
世界が変わった瞬間
そして，去年の夏。久しぶりにサイゼリアに行くと，
ペコリーノチーズが100円に値上がりしていたのだ。私がざっと見たところによると，他のメニューは値上がりしておらず，ペコリーノチーズだけが値上がりしていた。単純に原材料高騰の結果とも考えられるが，そうだとするとペコリーノチーズを使用した他のメニューも値上げされているはずである。なにより，値上げ後の値段が，セットドリンクバーにした時にお得になる90円をちょうど超すように設定されているのは偶然とは考えにくい。これはつまり，おふざけで発見してしまったペコリーノバグが，商品の値上げという世界的ムーヴメントを誘発してしまった可能性を示唆しているのだ！もしこれが本当なら，私のほんの些細な嗜好が世界を大きく変えてしまったことになる。それはバタフライエフェクトのように連鎖的に....
例えば，以下のような連鎖だったかもしれない。
１．私がサイコロゲームにはまる
２．サイゼリヤでサイコロゲームをする
３．天文学的確率でドリンクバーとペコリーノチーズを当てる
４．その裏技がサイゼリア上層部に知れ渡り，ペコリーノバグのための緊急会議が開かれる
５．その会議のため，田所係長はPerfumeのライブに行けなくなる
６．会議で，新入社員がペコリーノバグを解消するためには3通りの方法があると発言
７．(1)チーズをセット料理にしない，(2) セットドリンクバーを廃止する，(3)ペコリーノチーズを値上げすると書き出す
８．すると，チーズマスターのアントニオが，「オレノ作ッタチーズハ料理ジャナイノカ！」と激怒する
９．チーズマスターのアントニオの怒りを鎮めるために，(1)チーズをセット料理にしない，は却下される
１０．アントニオのご機嫌を取るために，田所係長が缶コーヒーを買いに行かされる
１１．次に，(2)セットドリンクバーを廃止する，という議題に移る
１２．すると，セットドリンクバー職人のジローラモが，「オレヲ失職サセルツモリカ！」と怒り，机を叩く
１３．その振動で机の上に置いてあった田所係長のiphoneが床に落ちて壊れる
１４．セットドリンクバー職人のジローラモの怒りを鎮めるために，(2)セットドリンクバーを廃止する，は却下される
１５．そこで，残された(3)ペコリーノチーズの値上げ，が決定された
という具合だったかもしれない。
結論
今回の例のように，何気に吐き出した言葉や行動が予想もできない結果をもたらすことがある。我々は，一人一人の小さな原因と大きな結果がダイナミックに相互作用している世界で生きているのかもしれない。例えば，今あなたが「していること」，あるいは「していないこと」が原因となって，ブラジルのマテウス君のプロポーズに影響しているかもしれない。逆に，今あなたが「していること」や「してないこと」は北京の王さんのコサックダンスの結果かもしれない。
このように，私たちは文字通り繋がって生きているのだ。時にはその繋がりが億劫に感じられたり，ネガティブな結果をもたらすこともあるかもしれない。故に、人との繋がりを毛嫌いする人もいるかもしれないが、私は寧ろ，この繋がりの連鎖こそが人生の醍醐味だと考えている。人生には，嫌だと思っていた物も，無関係だと思っていた人も，奇跡的な繋がりによって，大きな幸せにつながっていることもあるのだ。言い換えると，嫌な出来事や悲しい事件に見えることも，実はその先にある幸せの前章かもしれないということだ。ちょうど，iphoneを修理しに行った先で恋人ができた，田所係長のように。
