ダチョウに乗るためにベトナムに行った話

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プロローグ

照りつける日差しの中,見たことのないブランドの自転車を漕ぐ。

 

漕ぐたびに自転車はギィギィと大きな音を軋ませるが,それを咎める人はいない。というか,周りに人間がいない。

 

私たちは誰もいない空間をひたすらに進んだ。ダチョウに乗るために・・・

 

零日目

私は高校の友達二人と旅行に行くのが好きだ。これまで,和歌山では罰ゲームを街中でやる罰ゲームゲームを,福井県ではお互いをコーディネートし合う,クソダサ古着グランプリを行った。

 

 

 

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そして,今回ついに,舞台を海外に移すことにした。行き先は恒例のダーツで決めようとしたが,さすがに海外となると,治安や金銭的にどこでも良いという訳にはいかなかった。そこで,現実的に行ける国をピックアップして,そこからルーレットで決めることにした。そして,ルーレットの結果,ベトナムに行くことになった。

 

行き先が決まったところでまず実行したのは,ベトナムの観光地を調べること・・・ではなく,ベトナムのディープな情報を集めることだった。無難な旅行をしたくないという思いは国内でも海外でも変わらないのである。現地に駐在している人のブログを漁っていると,あるフレーズに目が止まった。

 

 

ダチョウに乗れる公園

 

 

ダチョウに乗ったことは勿論なかったし,これからもきっとないと思われた。私の友人で異性から人気の高い怒助兵衛珍宝丸(どすけべえちんぽこまる)くんも「ダチョウに乗ると一皮むけるよ」と言っていたので,乗ってみる価値は十分あると考えられた。そこで,ベトナム旅行のメイン目的をダチョウライドとして,我々は三泊四日のベトナムの旅へ飛び立った。

 

 

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飛行機の語学学習ゲームの画像。ここまで怒るのも無理はない。

 一日目

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格安航空で行ったため,ベトナムには夜到着した。

 

東南アジアなだけあって非常に蒸し暑かったが,異国に来たという高揚感であまり気にならなかった。せっかくなので,初日くらいはベトナムらしい料理を食べることにした。私は沢木耕太郎氏の「深夜特急」を愛読しているので,作中のように玄人感あふれる店に行きたかった。そこで,メインストリートから一本外れた薄暗い路地にある大衆食堂に行くことにした。観光客向けではないので,メニューには英語はおろか,写真も無かった。フォーが食べたかったので「フォー!フォー!」とハードゲイばりに連呼しても全く通じなかった(実際にはファ~みたいに発音するらしい)。異国の若者が「フォー!フォー!」と奇声を上げる姿に心を打たれたのであろう,店員さんがゾロゾロと全員出てきてくれた。そして,彼らの長い話し合いの末,何とかこちらの意図が伝わったようだ。

 

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魂のオーダーで勝ち取ったフォー

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謎の煮物もなぜか来てしまった。

 

言葉が通じないながらも何とか理解してくれようと努めてくれた姿勢が嬉しかった。このフォーは彼らの優しさでいっぱいの人生最高の一杯になるだろうと思った。一口すすれば,芳醇な香りが口の中に広がり,思わず感嘆の声がこぼれた。「あぁ・・・俺,パクチー無理だったわ・・」と。思い出の一杯は全て友達にあげて,帰りに大好きなバーガーキングに寄った。

 

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ナゲットが安かったので40個買った。

二日目

メインのダチョウは三日目に取っておくことにして,この日は世界一奇妙なテーマパークとして名高い,スイティエン公園に行った。ここは,仏教のテーマ―パークとして有名で,仏像のプールから,画質の悪いヴォルデ●ートが目印のハ●ーポッターのアトラクション(おそらく無許可)の何でもありの楽園だった。

 

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こういうのがいっぱいある場所

 

 

特に強烈だったのが,Dのインフレだ。

 

ここで言うDとは3Dメガネや,4映画でいうDのことであり,この園内には,5D,6Dのアトラクションは当たり前で,驚異の8Dシアターまであった。

 

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ラーメンハンバーグカレー定食のようなオールスター感

 

壁面にはハ●クやス●イダーマンなど世界的大人気キャラクター(おそらく無許可)があり,面白そうな予感が満載だ。一体どんな面白い映像体験ができるのだろうとワクワクしながら入った。

 

室内に入ると,携帯をいじっていた係員がびっくりした顔で立ち上がった。どうやら我々が今日初めてのお客さんのようで,慌てて電源を入れて準備をし始めた。余談だが,私が出会ったベトナムの人はメチャクチャ働き者かメチャクチャサボる人の二極化が激しかった。恐らく社会主義国家だから一生懸命やってもやらなくても給料が変わらないと思っていることが要因なのだろうか。実際のところ聞いていないので分からないが,とにかく,この8Dガイは憎めないニコニコ顔で3Dメガネを渡し,案内してくれた。

 

中は,椅子が中央に置かれ,それを360°スクリーンが囲むような形式だった。なるほど,これが8Dかとワクワクして待った。しばらくしても他の客は来ず,観客は我々だけであった。係員は「はじめるぞ」のような言葉を言って消灯した。さぁ,どんなヒーロー達が出てくるのだろうか!

 

期待を込めた眼差しの先に映ったのはどこかの廃墟のようであった。FPSのような主観映像で,廃墟の中を進んでいった。

 

映像はPlaystaion2くらいの中画質で,おどろおどろしい音楽が流れていた。階段を昇る映像に合わせて椅子が上下に動いた。なるほど,とりあえずこれで4Dか。

 

そして階段を昇り切った先には血まみれの女が立っていた。そして突如,画面いっぱいに女のマジキチスマイルが現れたと思ったら,360°スクリーンいっぱいにハサミが現れ,首を斬られた。これで5Dかな。

 

首を斬られ一気に階段から落ちるような演出があり,それに合わせて風がどこからともなく吹いた。これで6D

 

落ちた先には巨大ムカデやクモ,ゴキブリがうようよしており虫の鳴き声に合わせて水(本当に臭い)が噴き出た。これで7D

 

しばらく360°いっぱいの虫を見せられた後,先ほどの血まみれ女が再び現れて・・エンド。

 

なんだこれ。

 

楽しそうな外観からは想像もつかないような,下品なグロ・ホラーだった。しかも,どう好意的に解釈しても7Dまでしかない。騙された(Damasareta)ということで,8Dか。

 

他のアトラクションもいたるところが杜撰ではあったが,その適当さが逆に面白かった。

 

三日目

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ついにメイン目的となる,ダチョウライドの日だ。ダチョウに乗れるのは,マンゴー公園という国立公園だった。場所はかなり郊外の大きな道沿いにあり,タクシーで来たは良いものの,帰りのタクシーは到底捕まらないような場所であった。帰りの不安を抱えながら,とりあえず送ってくれたタクシーの運転手にお金を払おうとすると,運転手が受け取ろうとしなかった。紙に書いて何やら説明してくれたのを考察するに,どうやら倍の値段を払えば帰りも送ってくれるとのことだった。周りは本当に何もないようなところだったので,これはありがたい申し出だった。運転手は時計を指さし,3時間後というジェスチャーをして,携帯電話の番号を渡してくれた。

 

帰りの心配も払拭されたことで,安心感が湧き出てきた。しかし同時に,運転手が迎えにくるまでの3時間しか遊べないというのは少し残念だった。少々短すぎる気もしたが背に腹は変えられまい。

 

 

しかし,5分後,この心配は杞憂に終わることに気が付く。

 

 

 

人が全くいないのだ。

 

 

 

それは客は勿論,働いている人も受付の人以外,ほとんどいなかったのだ。事前情報で聞いていたプールやワニ釣りも軒並み閉鎖,途中の売店もほとんど閉まっていた。ここにきて焦りが生まれてきた。この調子では最終目的であるダチョウライドも閉まっているのではないだろうか。無駄に広い園内をヨタヨタと進み,ダチョウを探した。

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人はいない

 

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文明はない

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クマはいた

 

すると,入園依頼,久しぶりに人を見つけた。そこは園内を移動するための自転車をレンタルする店のようであった。あまりにも広いので自転車で探索することにした。照りつける日差しの中,見たことのないブランドの自転車を漕ぐ。漕ぐたびに自転車はギィギィと大きな音を軋ませるが,それを咎める人はいない。というか,周りに人間がいない。私たちは誰もいない空間をひたすらに進んだ。ダチョウを求めて・・・

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クソボロ自転車を破格で貸してくれた。

 

そして,ついにダチョウが生息する小屋を発見した。因みに,ここまですれ違ったのは,自転車屋のおっちゃん(人間)とポニー2匹だけである。当然,ダチョウ小屋にも人の姿は見えなかった。入園してから半ば予想していたことではあったが,やはりショックであった。仕方がないので,諦めて自転車を返しに行こうとすると,運よくダチョウ小屋の近くに営業中の売店を見つけた。売店では,若いお姉ちゃんが楽しそうに携帯でおしゃべりをしてサボっていた。私は藁にもすがる気持ちでお姉ちゃんに助けを求めた。

 

「あのダチョウに乗りたい」という旨を伝えると,首を振られ,グーグル翻訳で「あれは閉まっている」というメッセージを送られた。

 

しかし,ここまで来て引き下がれない。怒助兵衛珍宝丸(どすけべえちんぽこまる)くんの「ダチョウに乗ると一皮むけるよ」というアドバイスを必ず実現させねばならないのだ。得意の粘りプレイをし,「日本からはるばる来た」「昨日は眠れなかった」「君が大好きだ」とまくし立てた結果,少しだるそうに携帯で連絡を取ってくれた。しばらくすると,原付に乗ったおじさんがメチャクチャだるそうに来てくれた。やった,ついに怒助兵衛珍宝丸(どすけべえちんぽこまる)くんの教えが叶うのだ!

 

 

原付おじさんはだるそうにダチョウの乗り方をレクチャーしてくれた。ダチョウは羽を持つこと(襲われるから),首にはさわらないこと(襲われるから),万が一落ちても逃げないこと(襲われるから)・・など

 

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ダ,ダチョウだぁ

恐る恐る乗ってみると,生物の温かさを直に感じた。乗り心地自体はそれほど悪くなかった。注意しなけらばいけないのは,ダチョウの猛ダッシュ時はビビらずしっかり掴まること(落ちて襲われるから),そして,ダチョウの首は180°回るので,後ろを向かれて突っつかれてもビビらず掴まること(落ちて襲われるから)であった。今思えばかなり危ない動物だった。襲われた時の保険などが厄介だったから原付おじさんは渋ってたのだろうか。いずれにせよ,原付で駆けつけてくれたのはありがたかった。

 

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はしゃぐ私と見守る原付おじさん

 

実際に乗れたのは一瞬であったが,夢が叶い嬉しかった。異国の地で交渉をし,未知の体験をする。この経験は,まさにダチョウに乗ると一皮むけるよという彼の教え通りで,困難を経て人として成長できた気がする。原付おじさんと売店のお姉ちゃんにお礼を言い帰ることにした。

 

しかし,その時点では,迎えに来てもらうはずの3時間後の時間までだいぶ時間があった。とは言うものの,これ以上無の空間でやることは無かった。仕方がないので,受付の人に電話を借りてタクシーの運ちゃんに迎えに来てもらうことにした。長い道のりを戻ると,なんとタクシーの運転手さんは入り口に車をベタ付けする迷惑駐車をして我々を待っていてくれたのだ。周りには時間を潰せるようなところは全くなかったはずなので,我々を送ってからずっとここで迷惑駐車をして待っていてくれたのであろう。涙がほろり。運ちゃんは約束の時間より早く帰ってきた我々を見ても特に驚く様子はなく,「ダチョウに乗ったんだ」と言っても,前を見たまま「ナイス」と言っただけだった。クールな印象だが,健気に何もない空間で待っていてくれたことが嬉しかった。「ありがとう」と心の中でつぶやくと,照れくさそうに窓を開けて,顔を背けた。やっぱり言葉は通じずとも思いは通じるんだなと思った。感慨にふけっていると,運転席だけでなく,すべての窓が開いていることに気が付いた。ダチョウ臭いから窓を開けただけだったようだ。

 

エピローグ

3日間だけだったが,ベトナムの色々な面を見れたと思う。特に人に関して言うならば,ベトナムの人は仕事を積極的にサボるような適当な部分も多かったが,それ以上に素朴な優しさを感じることができた。フォー屋さんの店員さんたち,原付おじさん,タクシーの運ちゃん・・・出会う人すべてにドラマがあり,彼らの優しさに触れられたのはとても良い経験だった。また,最大の目的であるダチョウライドによって人間として一皮むけたようだ。

 

因みに,ダチョウに乗った後のズボンは臭すぎたので,ズボンは捨てた。Tシャツも,靴も捨てた。物理的にも一皮むけたようだ。