顔 

「地元の友達に似てるーーー!」

 

 

 

これまでの人生で,20000000回は言われた。初めて会った時や,まだそれほど親しくない関係の時によくこの話題が振られる。きっと相手は,話題提供として善意のつもりで話してくれるのだが,如何せん私はその友達のことを知らないので,「あっ,どもッス..」と微妙な反応をするほかないのだ。しかも写真を見せてもらうと,集合写真でふざけている一重の男の確率が異常に高いため,ますます何とも言えない気持ちになる。

 

しかし,彼らが私の顔を他の誰かの顔と照合したくなる気持ちは分かる。かくいう私も時々,顔の類似点を発見し,誰かと似ていると想像することがあるからだ。例えば,「あの人の目はOOに似てるな」とか,「骨格がOOにそっくり」と言った具合である。むしろ,すべての顔のパーツが唯一無二だと思うことの方が少ないのではないだろうか。私の考えでは,人類すべての顔は有限のカテゴリ内でソーティングできるということである。これについて説明していきたい。

 

唐突ではあるが,世界の創造主を仮定してみよう。地球というものを作り,ある程度の生物を配置した後で,いよいよ人間を作る時が来た。「人間:有性生殖の二足歩行で,頭脳にパラメータを全振り」という企画案をボスに提出すると,

 

「どうやって人間同士で他個体と識別するのか?」

 

と再提出をくらう。

 

識別のためには顔が必要だが,締め切りまであと24時間しかない。もしあなたが創造主なら24時間以内に全人類の顔パターンを白紙の状態から描くだろうか。きっと不可能だ。最初は丁寧に描くかもしれないが,後半は小2の自由帳みたいになるだろう。では,どうすれば良いだろうか。

 

答えはシステムを先に作り,あとは自動的にそのシステムから生まれるようにすれば良いのである。システムはシンプルであればあるほど良い。例えば,鼻(A:でかい/B:ちいさい),目(A:一重/B:二重),唇(A:たらこ/B:明太子)…….などと決めておいて,後はそれぞれの固体をランダムにシステムに当てはめていけばよい。例えばNo.1の固体に与えられた配列がABBだったら以下のような顔になる。

 

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他にも,あご(A:細い/B:太い),頬(A:ぷく/B:ふにゃ)などカテゴリは無数にあるが,そのカテゴリは無限でないとすると,どの人もどこかのグループに属することになる。私は「集合写真ふざける一重男(#209)」だし,あなたは「スケベなバレー部の顧問顔(#1123)」かもしれない。

 

このアイデアが正しいと仮定すると,少し虚しくないだろうか?可愛いあの子と運命的な出会いをしたと思ってもAAABBABAの「スケベなバレー部の顧問に気に入られる女子顔(#1124)」とまるで最初から決まっていたような印象を受けてしまう。遺伝子のマイナーチェンジがあったとしても,基本的には予想できる顔になってしまうのだ。

 

この虚しさを解消するために,アイデアや詩など,非物質的な工夫によってオリジナリティを出そうとしているのかもしれない。しかし,そのアイデアさえもあらかじめ規定されてた脳内のニューロン配列によって決められていたらと考えると夜も眠れない(ABAABAAABAA: アイデアを二進法による結果と考えて夜も眠れないと考えるニューロン配列 # 121334)