「人に迷惑をかけてはいけないよ。」
「人前で恥ずかしいことをしてはいけないよ。」
「ルールやマナーは守ろうね。」
幼少期から大人や社会からの教えは、「善」と「悪」の輪郭を際立たせ、しっかりと線引をする。これは間違い、これはやってはいけない。と....
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれは、終電が近づく飲み屋街でのことだった。
もうお酒はいらないが、もう少しだけ話をしたかったのでマクドナルドに行くことにした。同じようなことを思う人は多かったのだろう、日付が変わるのも近いにも関わらず、かなりの人数が並んでいた。しかし、特に欲しい物があるわけではなく注文を決める時間がかかるので、ある程度並ぶのはむしろ好都合であった。
どうしようかと少々悩み、特にお腹も減ってないしシェイクにすることにした。さて、注文をしようと思うと、列に並んでいる人がさっきから全く減っていないことに気がついた。よく見ると、先頭には私が店についたときから同じ男性がいるようだった。40代くらいだろうか?短髪の茶髪と白いロンTがヤンキー崩れジジイを彷彿とさせる。対応している店員は、増えていくレジ列にチラチラと不安げに目線を送りながらどうすることもできず、不安そうに立ち尽くしている。並んでいる人たちからも明らかにイライラが伝わってくる。本来この時間だったらレジは1名で回せるはずだが、あまりにも列が長いので隣のレジも開設することになったようだ。それでもジジイは依然動かないので、事実上隣のレジだけが稼働している状態だった。結局ある程度進み私の番になったときもあのジジイはまだレジにいた。
隣になって初めて気がついたが、どうやらアプリでクーポンを探していて悩んでいたようだ。それくらい並んでる間に準備しとけよ。と心の中で舌打ちをした。ジジイは長考の末、やっと注文が決まり、対応している店員も安堵したようだ、クーポンを読み取る尋常じゃない速度から1秒でも早く対応を終わりたいことを感じさせる。やや強い語調で「300円です!」と促すと、ジジイはデカめの声で、ポイントカードあったわ!と財布をゴソゴソと探り始める。一体どれだけ遅延行為を繰り返せるんだよと、スマイル0円を売りにしているとは思えない店員の表情からも伝わってくる。
しばらくのポイントカードを探す大航海の末にやっと会計が終わり、憔悴しきった店員が「レシートの番号でお呼びします....」とレシートを渡した。
おれ、レシートいらない!!!!
あとポテト揚げたてにして!!!!!!!!
やっと解放されたと思った店員の目の前にレシートが突き返される。先程からの自分勝手な行動もさることながら、一貫してタメ口&バカデカボイスなのがまた癪にさわる。さらに、せこいライフハック(雑学)の鉄板である「ポテトを塩抜きで注文すると、揚げたてになるゾ」を塩抜きを経由せず力技で打ち込んできた。店員もいちいち返事もする気がないのだろう、無言でレシートをくしゃりと引っ込めながら、「ポテト揚げて!!!!」と語気を荒げる。
いろいろあったが、ようやく珍客の対応を終えた。この客のせいでたまってしまった注文を裁こうと即座に次の仕事に移ろうとしたその瞬間、
おい、ちょっとまて!!
とまた、タメ口&バカデカボイスが響き渡る。
これ以上店員をいじめないでくれ、と願う思いをよそに
これ(タバコの空き箱).....おいてあったよ
とわざわざ忙しそうな店員を呼び止め、近くに放置されていたゴミを渡した。
あと、ポテトは塩多めね!!!!
店員も私達客もあっけにとられてしまい、一瞬時が止まったかのような気持ちになる。なぜこのタイミングでこのゴミを指摘できるのだろうか。そして、追撃するように塩多めの注文。この人は働いたことがないのだろうか...?店員はこの人物にこれ以上の感情を使うことを拒否するように感情を殺した顔で何事もなかったかのようにゴミを受け取った。
このような人物を店や電車で見かけると、それ以外の全員で妙な連帯感が生まれるような感覚がないだろうか?まさに、その場はその感覚を共有しており、周りの客とは話していないものの、きっと同じ気持ちを共有できていたに違いない。私は久しぶりに変なやつに出会ったと思い、早速、友人に報告しようとした。
ねぇねぇ聞いてくれよ、めちゃ変なやついてさ!!
まず、レジでありえないぐらい長い間悩んでてさ〜
それで、やっと終わったと思ったら、ポイントカードを探しだしたんだよ...!!
で....ポテト揚げたてにさせてさ!
それと...レシートいらないとかいいだして.....
あと....あとは....声もデカかったかな....?
それで、忙しいのに...ゴミが置いてあることを.......報告....
先程の出来事を列挙しようとすると、ジジイの行った行為には「悪いこと」が全くないことに気がついた。つまり、少なくとも彼の行為には人を貶めようとするような「悪意」はなかったのだ。確かにレジはすごく混んでしまったが、それだからといってレジで悩むことは「悪」だろうか。また、混んでるときにはポテトの揚げたてを注文することは「悪」だろうか。お金を払っている以上、美味しい状態で食べたいと思う気持ちは正当な権利ではないだろうか。さらに、忙しい店員を呼び止めて落ちているゴミを教えることは「悪」だろうか??むしろ誰もが見てみぬふりをしていたものなのに唯一指摘しているではないか。
この瞬間、ある種の恐ろしさを覚えた。
私は無意識のうちに普通とは違う行動をしている人を「悪」と思い、ネタにしようとしていたのだ。しかし、冷静に考えるとそれは「悪」ではなかった。ただ、普通の人はやらないことをしていただけだったのだ。
思えば私はこれまで、多くの場面で似たようなことをしてきた。ちょっと変わった人を見ては、変なやつだなぁとまるで悪者のように笑いものにした。
例えば、「悪」ではないのに、同じ話を繰り返す職場の上司をエンドレスジジイと揶揄したり、
「悪」ではないが、本質的な問題解決行動ができていないと思われるおじいさんをコロナ対策と同一視したり(いま見返したら少々思想が強く見えますが、当ブログは全くそのような思想をもっておりません。ただ5Gの洗脳を阻止するためにアルミホイルをかぶってるだけです。)
そして「悪」ではないのに、しっかり指差し確認したあとに女子トイレに入っていくおじいさんを馬鹿にしたりしていました。いや、これは普通に「悪」か。
本当にこのブログはジジイのことしか書いていないと思いつつ、しかし、それは普通とは違いがちなジジイを見つけては面白がっている、この悪しき心があることを現しています。
今回の深夜のマクドナルドでの出会いは私に大切なことを教えてくれました。これまで、普通からはみ出ることは「悪」だと思いこんでいましたが、実はそんなことなかったのです。「悪」とは、何だ。「悪」とは、誰だ。今一度、この人類にとって命題に立ち返る必要があるのです!!少なくとも私は目が覚めました。もう金輪際ジジイを馬鹿にするようなことはしません!!
「あ、あの、お客様・・・・・・」
は?
「あの、他のお客様もお待ちなので、ちょっとそういうお話はレジではご遠慮いただきたいのですが・・・」テロリテロリテロリ♪
なんだ君は??私の高尚な思想がわからないというのかね??低学歴が!!!
「いや、思想とかちょっとわからないですけど...少なくとも他の方もお待ちのレジではちょっとやめていただきたいのですが.....」
「悪」とは.....誰だ。
※またジジイの悪口を言ってしまいました...