世にも奇怪な物語「クチクサおじさん」  

 

あれは木枯らしが吹き始めた去年の暮のころであった。気温が下がってきて,冷たい風が口の中を駆け巡ると,私の知覚過敏は耐え難い痛みと冬の到来を告げた。知覚過敏と言えば冷たい水や食べ物を食べたときにキーンとしみる症状のことだが,私の症状は悪化の一途を辿り,ついに外気の冷たい風にまで反応するようになってしまったのだ。仕方がないので,歯医者に通うことにした。

 

また時を同じくして,私は慢性副鼻腔炎,いわゆる蓄膿症にも悩まされていた。これは,ウイルスや細菌によって鼻水が粘りの強い黄色になる症状である。この症状の最大の苦しさは,その「ニオイ」にある。この粘り気のある黄色の鼻水は,上履きで作ったチーズに腐った卵黄を垂らし,とどめに脇でタッチしたような酷いニオイだった。そのようなニオイの鼻水が常に鼻の奥にいるため,ちょっと鼻から息をするだけで失神しそうなほどの「くさみ」が自分の体の中に満ちたのだ。また,口から息をすれば知覚過敏が痛むという,ダブルコンボ。自分は呼吸をする資格すらない存在なのかと思い,鼻水を垂らしながら号泣した。その鼻水も臭くてさらに泣いた。

 

そんなわけで,歯医者にやってきて知覚過敏を直してもらうことにした。しかし,知覚過敏の根本的治療はなく,薬で耐えるか,(神経を)切るかの2択しかなかった。薬で耐えるか,(手首を)切るかの2択しかないメンヘラ女の問題解決方法と根本的に変わらないなと思いつつも,神経を切るのが怖かったので,とりあえずシュミテクトを処方してもらうことにした。しかし,問題はそれだけでなく,歯周病もかなり深刻なレベルで進行していると伝えられた。天は二物どころか三物を与えてくださったのだ(いらんわ)。

 

歯周病は私の乏しい歯磨き習慣によるものらしく,歯磨きについて徹底的なアドバイスを受けた。

  • 夜の(歯磨き)テクニックの重要性(睡眠中が一番殺菌が繁殖するため)
  • アレ(毛先)の固さ(芯は固いよりフニャ芯の方がいいらしい)
  • 行為(歯磨き)の長さすぐに(唾液を)出そうとしてはいけない

 

など,ためになる話をしてもらった。

 

その際,1つだけ気になったことがあった。それは,執拗に口臭について言われたことである。最初に言われたときは,まぁ確かにそうだな程度にしか思わなかったが,そのすぐ後も,「口が臭いのは良くないからね」,「今はOO君大丈夫だけど,このまま磨かないと将来臭くなるかもね….」,「臭いとモテないよ」とニオイに関する話題を通常では考えられない頻度(20秒あたり1回)で振ってきたのだ。

 

きっと歯医者さんは,ただならぬ異臭を私から感じ取り,お前相当クサイぞというのを日本人らしく暗示してくれたのだろう。「違うんです!このニオイは僕の口臭ではなく,鼻水からくるものなんです!!」と主張をしたかった。しかし,そんな主張をしたところで,

 

「くちクサ少年ニオイ認めず,クサ過ぎ,担当変わって」

 

とカルテに書かれるのがオチだろう。私はひたすら「それは厳しっスネ…」と惨めな相槌を打ちながら,口臭トークが終わるのを待つしかなかった。でも,ホントにボクの口はクサくないんだよ!信じてくれ~~~!!!

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テンテンテテレレ~♪テンテンテテレレ~♪

タモリ「彼が迷いこんでしまった世界は夢かうつつか。ニオイの原因は自分の口ではなく,鼻水だと主張しました。しかし,それは彼が現実から目を背けるために作った幻なのかもしれません。人間は自分にとって悪い部分は見て見ぬふりをするものですから。おっといけない,そういう私も!(口を抑える),自分では気づかないところでニオイをばらまいているかもしれませんよ,私もアナタも・・・・」

 

デレレレ!デレレレ!デレレレ!

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