前回
(19日目)8月12日
遠回りこそが1番の近道だ。
これはジョジョの奇妙な冒険第7部スティールボールランでジャイロが言っていたことであるが、私はこの日に本当にその通りだと思った。旅とは効率よく回ることが全てじゃない、そう思えた1日だった。
その日も曇りで、北海道に来てからずっと天気が良くなかった。ただでさえずっと天気が良くない上に、ミラー破損という思わぬハプニングによる無駄な出費&時間で気分は落ち込んでいた。空はまるで私の心を映し出しているかのようで、予定が崩されたことに苛立っていた。
早く今日の目的地に着きたい一心で、周りの景色に目もくれず、ひたすら進んでいた。
すると、対向車線にタイ王国で有名なトゥクトゥクが走ってくるのが目に見えた。
北海道な雄大な自然と、その独特な色使いのボディがもたらすコントラストはおかしかった。きっとドライバーはトゥクトゥクに魅せられ、それで北海道を走りたいと思ったのだろう。その純粋な願い、少年のような優しく不器用な思いが何だか笑えてきて、少し元気が出てきた。
そして、ミラーを一瞬で購入し、コンビニで簡単な飯を済ませて、元々の目的地に急いだ。
すると思ったより早く着きそうだったので、途中にあった節婦という町で海を眺めることにした。
海を見ながら、話してもいないトゥクトゥクのドライバーに想いを寄せた。きっと燃費がそれほど良いわけでもないし、乗り心地も最高とは言えないだろう。ただ、単純に彼は旅を楽しみ、トゥクトゥクを楽しんでいたのだろう。一方自分は、決められた目的地を目指し、それに向かって突き進もうとしただけだった。思えば、本州を通過した時も早く行かなければという焦燥感が強かったように感じる。時間や行き先は決められていないのに、何かに追われるように焦っていた。
そんなことを思っていると、結構良い時間になったので、その日泊まるつもりだったキャンパサイトに行った。そこは旅が始まってからの初めての有料キャンプサイトだった。
私がそこに到着したのと同時に、別のおっちゃんも到着した。全く同タイミングだったので、なんとなく会釈をして、それぞれ受付に並んだ。
すると、キャンプサイトがいっぱいで誰かとシェアする必要があると言われた。それも同じタイミングで言われたので、そのおっちゃんと料金を割り勘することにして、奇妙なシェア生活が始まった。
その時にお互い自己紹介して、色々話した。彼は60を越したベテランライダーのように見えたが、意外にも北海道は私と同じで初めてのだったそうだ。若い時からずっと行きたいと思っていたが、家族のことや仕事でなかなか行けず、今回ようやく僅かなお盆休みと有給を使って念願の初北海道に来られたとのことだった。そしてその日が彼にとっての最終日で、北海道の魅力や思い出ついて語ってくれた。嬉々として話す姿は、本当に北海道が楽しかったんだなと思わせ、非常に心地が良かった。
そして、同時に旅に出られていることは、当たり前ではないのだと思えた。
それは時間的制約はもちろんのことだが、周りのサポートや自分の身を案じてくれている人がいたから旅に出られているのだと改めて思った。
私はこの旅に出る前に約1ヶ月半のフリーター生活があったのだが、1ヶ月半だけ働いてまたすぐにしばらく旅に出ることを許可してくれる職場なんて中々思いつかなかった。そんな中、留学前に働いていた職場の上司の人は、旅は今しかできないと許可してくれたどころが、お金が必要だろうと案じて、自分の希望通りにほぼ毎日のシフトを入れてくれた。また、叔父さんも仕事を斡旋してくれた。彼らのおかげで旅の資金を貯められて、旅に出発することができた。
また、出発の際に、職場ではたくさんの人がカンパしてくれたし、
普段クールな叔父さんもわざわざ私を呼び寄せ、旅グッズと財布を落とした時の緊急のお金と称してお小遣いもくれた。
前回話した通り、東京の友人達や東京の叔父さんも手厚いサポートをしてくれた。
改めて私は周りに恵まれているのだと感じた。彼らのおかげで旅に出られたのに、めったに得難い貴重な経験なのに、私はそれほどの思いを向けられていなかった。
今回旅を楽しんでいる彼を見て、私も旅を楽しもうと思った。何かを無理やり得ようと焦らなくても良い。純粋に感じて、純粋に楽しむ。
今回このようなことを思えたのは、このおっさんと会えたからだ。なぜ会えたかというと、無駄だと思っていた札幌へのバイクショップの時間があったからだ。旅は効率的でなくて良い。
日光東照宮で見た札にも同じようなことが書いてあったが、色々回り道をして、その都度感じることが旅であり、人生なのだ。
おっちゃんが振舞ってくれたラーメンをすすりながらそんなことを思った19日目の夜だった。
20日目(8月13日)
北海道4日目にして、初めて晴れた!
おっさんにお礼を言って別れた後、南の端にある襟裳岬を目指した。
岬に向かうまでの道はぐっとまっすぐで、ようやく北海道に来た実感が湧いた。
岬の後は、帯広にでかい花火大会があるとフェリーで出会った人に聞いたので、帯広に行った。そこには有名な豚丼があるとのことで、試してみることにした。昼時ピークの12時ごろ到着で、多少混むかもしれないと思ったが、北海道は広いから人は散らばっているとたかをくくっていた。
すると
予想を大いに超える大行列だった。
意味わからないくらい混んでいたが、ここまできたら意地だと思い並んだ。
結局食べられたのは午後4時近くだった。
そして、今日は久しぶりに屋根の下で寝られることになった。紹介されたライダーハウスに行ったところ、おじさんが絡んできてくれて、一緒に花火デートをすることになった。
おじさんのおかげで穴場スポット的な場所から迫力ある花火が観れた。
また、おじさんと意気投合しすぎて、連泊することにしてしまった。
次回、暗い密室、おじさんとドキドキルームシェア、お楽しみに。
次回