人生はカレーライス

「ナスとソーセージご飯400g でお待ちのお客様ー?」

 

バイト先のおっさん達とやってきたココイチで、運ばれたきたそのカレーは誰のものでもなかった。

 

 

 

「ぼく、、、ほうれん草って言ったけど、、、?」

 

 

180cmはゆうに超える巨体にスキンヘッドのおっさんが怒りを抑えきれない様子で声を震わせながら呟いた。今でこその風貌にも見慣れたが、初見の人はチビって有り金を全て置いて逃げることだろう。

 

店員さんもビビってしまい、ただオドオドするだけだった。他のおっさんが気を利かせて「変えてもらえばええがや(変えてもらえば良いではないか)」とフォローしたが、スキンヘッドはもういい!!と子供のように駄々をこねて、卓上のとび辛スパイスを当て付けのように無茶苦茶に入れていた。

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(とび辛スパイスは入れると辛くなるよ)

 

 

その量は尋常ではなく、カレールーが見えなくなるほどだった。もはや食い物ではなくなったはずだったが、スキンヘッドはムキになってキレながら食べてた。

 

確かにオッサンの気持ちも分かったけど、自分の思い通りにいかなくなるとすぐ癇癪をおこすのはあまり褒められたものではないと思った。私は思い通りにならくても子どものように振る舞わないでおこう、オッサンがヤケクソでくれたソーセージを食いながらそう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の午後、私は就職に関する電話面談があった。もともと5時と聞いていたが、前日のアポ確認では、5時半と言われた。まあ遅くなる分にはいいかと思い5時半のつもりでギリギリまで働くことにした。すると、5時10分ごろに電話がかかってきた。どうやら、やはり電話は5時からのつもりだったらしいが、昨日のアポ確認で誤って5時半としてしまったらしいのだ。5時にしても10分以上遅いことにまずムカついたし、向こうの都合で5時30分には電話を終わらせてほしいと言われて何だか腹が立ってしまった。

 

 

何か話したいことはあるかと聞かれても、「ない」と素っ気なく返してしまった。

 

本当はナマコの直腸で暮らすカクレウオの話について3時間くらい話したかったのに。

 

 

志望理由についても聞かれたが、「まだ考えていない」といじけて答えてしまった。

 

本当は200個くらい用意していて、それぞれをデデデ大王のモノマネをしながら言えるくらい練習していたのに。

 

 

なんだか元気ないね、と言われても「別に普通っす」と冷たく答えてしまった。

 

本当は、ペコちゃんの顔でスキャットマンの歌を歌いながら、光速盆踊りを披露するくらい元気だったのに。

 

 

この時、私の行動は卓上のトビカラスパイスをかけまくるスキンヘッドと同等のものだったといえよう。自分の本当の気持ちには蓋をしながら、トビ辛スパイスの蓋は全開にする。その先には激辛の未来しか見えないことを知っていながらも、思い通りにいかなかったストレスから自傷的行動に走ってしまう。

 

 

 

思えばこれまでの人生そのようなことの連続だったかもしれない。すぐに止めればまだ間に合ったかもしれないのに、ついついムキになって激辛の素を入れ続けてしまう。カレーも人生も1度激辛にしてしまったものは元の辛さには戻せないのだ。今年23になるほど加齢をしているというのに、未だにそういった愚行を繰り返してしまう。理想とする華麗な男の生き方とは程遠く、ついつい自己嫌悪に陥ってしまう。

 

しかし、もうやってしまったことはどうしょうもない。人生もカレーも、元に戻れない激辛状態になってしまったとしても、ただひたすらに歩んでいくしかないのだ。やり直しの効かないという点で人生とカレーはよく似ているかもしれない。私は人生とカレーの不可逆性を楽しみながら、これからも辛口の人生を楽しんでいこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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いや、カレーは元に戻れるんかーい!